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調査員のおすすめの逸品№376 縄文貝塚から発掘された魅惑のアクセサリー 粟津湖底遺跡
美しいものは我々を魅了します。そしてそれを見たり身につけたりするのは、心躍るものです。何千年も前の縄文人も同じだったのだな――そんな風に思わせてくれるものがあります。
琵琶湖の南端部に位置する粟津(あわづ)湖底遺跡(大津市)(写真1)からは、自然素材を用いてつくられた複数のアクセサリーがみつかりました。

同遺跡は、縄文時代早期(約1万年前)のクリ塚や自然流路、縄文時代中期(約4500年前)の貝塚を中心とする遺跡で、土器や石器といった人工遺物のほかに、人が利用したたくさんの自然遺物が見つかりました。なかでも湖底に眠っていたこの遺跡では、豊富な湖水にパックされて、通常の遺跡では残りにくい植物質の遺存体が含まれていました。
多くの食糧残滓(食べられる部分をとった残りかす)からは縄文人の食生活の実態を知ることができ、獣・魚介類・木の実などの植物質食料を獲得する狩猟・採集の食生活のなかでも、植物質食料が大きな比率を占めていたことが明らかになりました(第288・296・314・347・356回など)。
こうした食料残滓のほかに、数々のアクセサリーがみつかっています。とりわけ縄文時代中期の貝塚からはイノシシ犬歯やヒメグルミのペンダント、漆塗りの土製ピアス(写真2)・木製ブレスレット・櫛(写真3)、シカ骨の笄(こうがい/髪留め)、イタボガキという貝のブレスレット、琥珀製の玉など(写真4)、多様なものが出土しています。装飾品として利用していたかどうかは不明ですが、白く輝く淡水産の真珠(写真5)もあります。また縄文時代早期のクリ塚からは木製ペンダントが出土しています。

木製ペンダントは細長く丸みを帯びた形に整えた材の表面に線で模様を施したもので、約1万年前にはデザインの意識があったことがわかります。
また、ヒメグルミのペンダントについては、おなじくるみの仲間でもシワガ深くてごつごつした球形に近いオニグルミは食料にしていたのに対し、扁平な雫(しずく)形で表面がつるりとした印象を受けるヒメグルミはペンダント用に選んで使用していたようです(第309回)。
漆塗りの製品は鮮やかな赤色でつややかな光沢を持ち、色彩感覚を感じさせます。櫛は髪をとかすというより、笄とともに髪留め、髪飾りといったもので、装飾とともに、髪をまとめたヘアスタイルの人がいたことを示しています。
イタボガキは海産の二枚貝で淡水の琵琶湖では採れず、琥珀も県内で産出は知られていないことから、ともに県外から持ち込まれたものであることがわかります。
こうした粟津湖底遺跡の調査でみつかった魅惑的なアクセサリーの数々は、鮮やかな色彩やデザイン感覚、材料の選択性などが如実にうかがえるもので、私にとって、豊かな精神世界に彩られた縄文人の生活が確かにあった、と身近に実感できた逸品です。
参考文献
・『琵琶湖開発事業関連埋蔵文化財発掘調査報告書』1(粟津湖底遺跡 第3貝塚)1997 滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会
・『琵琶湖開発事業関連埋蔵文化財発掘調査報告書』3-2(粟津湖底遺跡 自然流路)2000 滋賀県教育委員会・財団法人滋賀県文化財保護協会
(中川治美 / 企画整理課)